詐欺師の楽園

前にも書いたとおり、今ちょっとまとめ読みの最中なのであるが、たまたま次に読もうと考えていた本が手元になかったため、寄り道した。

詐欺師の楽園 (河出文庫)

詐欺師の楽園 (河出文庫)

というわけで、たまたま手に入った種村季弘さんの「詐欺師の楽園」を読んだ。河出文庫では絶版のようだが岩波現代文庫から再版されている。そういえば書きそびれていたが「食物漫遊記」も最近読んだ。
食物漫遊記 (ちくま文庫)

食物漫遊記 (ちくま文庫)

「食物漫遊記」は食に関するエッセイだ*1が、「詐欺師の楽園」は主に欧州における詐欺師たちの実像を描いたものだった。単に主だったエピソードを紹介するだけでなく、その生まれから最期までをきちんと書いている点はさすが。
はじめから悪童コールによる贋エチオピア皇帝事件でひと笑いあり、それに若き日のヴァージニア・ウルフも参加していたというエピソードで無駄な知識欲を満足させる。また、女装の最強騎士ボーモン(シュヴァリエ・デオン)、ボーマルシェロベール・ウーダン*2など魅力的なキャラクタが紹介されていく。
さらにはこういった詐欺が「システムを熟知したシステム外に位置する詐欺師がそのシステムの隙をみつけ、そのシステムにとらわれた内側の人間たちを手玉に取る」という構図を示していく。それ故にそのシステムが崩壊した後の彼らはもはや詐欺師足り得ない。最後の章「詐欺師の楽園」における種村さんの詐欺師たちに対する分析はとてもロマンチックで良い。
まあ、そういう面倒なことはさておき、詐欺師たちのカブキっぷりを楽しめば良い。ブンガ!ブンガ!

*1:とはいえ、その博覧強記ぶりはかわらず。

*2:種村さんも書いている通り、詐欺師といって良いか微妙だが。奇術師。