魔界都市ブルース 幻舞の章

菊地秀行さんの「魔界都市ブルース 幻舞の章」を読了した。図書館で借りた。

魔界都市ブルース 幻舞の章 (ノン・ノベル)

魔界都市ブルース 幻舞の章 (ノン・ノベル)

ファンとしてこの本をとりあげるのであれば、挿絵について語らなければなるまい。いやいや、それが本質的でないというのはわかる。言い換えよう。挿絵について語りたい。小畑健さんがこの巻から絵を担当することになったようだ。

両親を内部へ入れ、ドアを閉めるふりをして、大急ぎで覗いた。
黒いコートの上で前を向きかけた横顔しか見えなかった。
それは春奈の胸に美しいポジのように灼きつけられたーというのは正確ではない。残ったのは、魂まで奪う美への思いだけだった。その眼も鼻梁も唇も「美しい」イメージのみが残り、朧ろにも憶い出せない。
魔界都市ブルース 幻舞の章」から「帰りて、後」

秋せつらやメフィストの美しさの描写からも言えるように、こんなにはっきりとした絵にしてしまっては身も蓋もない(漫画家としての画がうますぎる)。「魔界都市ブルース1 妖花の章」の初版の表紙と同じだwその点、未弥純さんの絵はぼんやりとした画風で、形容・写実し難いせつらの容姿を挿絵とするのにとてもマッチしていた。
ある意味で、書いている菊地さん本人はそうでないことを意識しているかもしれないが、「魔界都市ブルース」がもはやキャラクタ小説(ラノベ?)化してきているのかもしれない。
確かに僕は登場するキャラクタが好きだが、他の魔界都市ものと比較しても魔界都市ブルースが好きだったのは、短編であるが故に、描かれているものが単なるエンターテイメントでなく、人と人との交錯であったからだ。だからこその「ブルース」なのだと思っていた。(こんなことを言うと怒られそうな気もするが、「カウボーイ・ビバップ」に通じるものがある。)「幽剣抄」は「魔界都市ブルース」と比べて、キャラクタ色というものがない分、この感覚が直に感じられるのが良い。
ともかく、そういった感覚も今作品では少し弱まった感があり、そこは少し残念であった。しかし、ファンとしては十分楽しめた。いつも図書館でごめんなさい。
追記。そして、エロスに欠ける。エロスが、これはエロスですというレッテルそのままのエロであり、明らかにねっとりとした、嫌な感じのエロスは失われている。そういう意味では「妖花の章」におけるせつらの性格は貴重であったことよw