隠し剣秋風抄

藤沢周平「隠し剣秋風抄」を読んだ。山田洋次さん監督作品「武士の一分」の原作「盲目剣谺返し」を含む短編集。
山田洋次さんはこれまで藤沢周平さんの作品を2作映画化してきたが、それまでまったく読もうとは思わなかったし、映画も観ていない。ただ今回の「武士の一分」はざっと聞いたストーリーになんだか惹かれて原作を読みたくなった。

新装版 隠し剣秋風抄 (文春文庫)

新装版 隠し剣秋風抄 (文春文庫)

原作では非常に短い一編。映画そのものは観ていないのだが、あおりの宣伝などを見る限りではまったく違う印象であると思う。主人公、三村新之丞も映画で描かれているイメージとは全然違う。全体的に菊地秀行さんの「幽剣抄」シリーズと非常に良く似た雰囲気があって楽しめた。
映画を観ていないので正確なところはわからないが、宣伝通りの作品(これまでの山田洋次さんの作風)であれば、この映画を気に入った人が読むと少しずれを感じるかもしれない。逆に僕のようなタイプの剣客もの好きにはたまらない一冊だと思う。
下級武士の哀しみというのがひとつの根底にあるように思うけれど、僕はこの作品に描かれているような、また「幽剣抄」にあるようなそれがとても気に入っている。もしこれが泣ける映画になるとしたらそれは僕の好きな部分とは少しずれている気がする。