ミスト

11日がちょうど上映初日だったらしく、勢いで映画「ミスト」を観に行った。

この映画の原作となったスティーブン・キングの中篇「霧」は僕としてもとても気に入っている作品であったために期待と、期待してはいけないというこれまでの自戒の念の間でゆれていた。
視界ゼロの霧につつまれたスーパーマーケットに閉じ込められた人たち。霧の中に現われては消える「何か」による恐怖。そのような状況における人々の選択が描かれる。スティーブン・キングが描くのはホラーでありつつも、あくまでも人間なのだということがはっきりと伝わってくる。
原作は「人間の感情の中で、何よりも古く、何よりも強烈なのは恐怖である。その中でも、最も古く、最も強烈なのが未知にものに対する恐怖である」というHPLの言葉を見事に文章化した名作だ。
そこかしこに書かれていることだが、この映画のラストは原作とは大きく異なったものである。しかしながら、そこまでの話は原作にかなり忠実に進み、しかも期待を裏切らない映像化っぷりだ。原作が中篇というサイズであったからこそ、ここまで原作で描いてきたものを再現できるのだろう。
さて、肝心のラストであるが、

こういうものは大抵過剰広告だが、本作に限っていえば良心的な「過小表示」である。そう、この結末は凄まじいなんてものじゃない。もちろん、原作をはるかに超えている。それは、インパクトの意味で凌駕したというだけでなく、テーマがはっきりしたという点で優れたものと私は評価している。
超映画批評『ミスト』90点
http://movie.maeda-y.com/movie/01104.htm

ひとつこれを読んでいる人に対して確実に言えることは、これをデートの、特に午前中に観ようなどとは間違っても思ってはならない。おそらくお洒落なランチの味もよくわからないまま午後へ突入することになる。
Nさんも僕も映画を観る前に原作を読んでいたのだが、途中までうきうき気分であったNさん*1が終了したあと発した一言目が「疲れた」であり、非常なおむずかりようだった。
ラストのシーンではいくつかおかしいところがあるが、それを議論できる状態になるにはちと時間がかかった。
この映画はとてもよく出来ている。実際、原作のラストをそのまま持ってきてもほとんどの人は納得できないと思う(その逆もしかり)。そのあたりが映画と小説というメディアの差異だと僕は思うのだが。しかしテーマに関しては共通しているもののメッセージ性は同一であると思わない。
僕はやはり原作のラストが好きだ。しかしこの映画のラストも十分観る価値がある。
ラストばかりが特筆される傾向にあるのはやむをえないが、それまでの話の流れも十分に素晴らしく、キングのモンスターものをここまでサラッと再現した映画は珍しい。B級スプラッタに偏向することもなく、芸術的な映像に昇華させられることもない。
旧約聖書になじみのない日本人が納得を得ることは難しいかもしれない*2が、それでもよくできた作品でした。
Nさんと話をしたときには原作を読んでいたから楽しめたのかな?などと言っていたが、僕はそういうわけでもないと思う。
スティーブン・キングらしいキャラクタたちも楽しめるし、お涙頂戴ものでない、ホラーの名手としてのキング作品で、万人に勧められる(ただし観終わった後のことは保障しません)。

*1:途中うきうきなのもどうかと思うが。

*2:作品中にもちらと出てくるがアブラハムのエピソードについてダン・シモンズハイペリオン」を読んでさんざ考えさせられた身として、僕はわりとこのようなラストが生まれた背景については納得できた。