ガロアの生涯

人生は短い。別にこの本で得た教訓ということではなく、読める本の数は少ないなと思い、しばらく「確実に面白いだろうがなんとなく読んでいない・積まれている本を読む」ということに決めた。僕は割り合いに普通はそれから読むだろう、というような本を読んでいないことが多い。なんだか読み始めようという気にならない。もったいないと思っているのかもしれない。そこを改めて(しばらくは)そういう本こそ先に読もうと決めた。
そんで、第一弾がこの「ガロアの生涯」。父の蔵書から。

ガロアの生涯―神々の愛でし人

ガロアの生涯―神々の愛でし人

ガロアの生涯におけるフィクションとノンフィクションの境界についての議論はこの本の中で十分なされていると思うので割愛。
事前に僕が持っていたガロアに関する知識は方程式論におけるガロア群(方程式が冪根によって解かれる諸条件における置換群)についての話を少々と、決闘によって夭折したことというレベルだったが、この本を読んでガロアフランス革命以後の共和主義者としての一面が付け加わった。

偉大な人間たちは孤独だった。生来そうだからというんじゃなくて、人生というものが彼らに孤独たるべきことを教えたのだ。そしてぼくにも、人生は同じことを教えつつある。ぼくは謙虚にこの教訓を受けとらねばならない。しかしぼくには二つのことが残っている。民衆の闘いと数学だ。
オポルト・インフェルト「ガロアの生涯」

例えば「放浪の天才数学者エルデシュ」などを読んで数学者の伝記を読みたいと思った人であれば、この本はお気に召さないかもしれない。大部分はフランスの歴史であり、数学に関する話題はほとんど出てこない。けれども、この本を読むのであれば、最後の章「8 自由の回復」は欠かせないと思う。Wikipediaによればガロアの死の謎についてはこの本とは異なる推測が有力視されつつあるそう*1だが、この本が著者の心情と深い関わりあることを思えばあまり気にならない。グッときた。*2

しかしあらゆる科学の中で最も高貴でもっとも抽象的な数学でさえ、その王冠は空中にあるかも知れないが、その根はわれわれの住んでいるこの地に深くのびています。数学でさえ、お前が自分や同僚たちの苦悩から逃避することを許しはしないでしょう。愛する息子よ、もっと勇気を出して闘いなさい。父よりも立派に闘って下さい。一生涯、お前の耳に自由の鐘が鳴っているように祈ります。*3
オポルト・インフェルト「ガロアの生涯」

ガロアについては彌永昌吉さんの「ガロアの時代 ガロアの数学」が中々に評判が良いようで気になる。「ガロアの生涯」とは異なり数学的側面の書籍らしい。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/エヴァリスト・ガロア

*2:涙腺はゆるまない類の感動。

*3:未読の方のために付け加えると、これはガロアの言では「ない」し、この部分はおそらく創作である。